寝取られた(2016/1/13)

最近寝取られ事案が多い。といっても二回位だと思うが、これまでと比べるとかなり多い方になる。

バイト先の塾でのことだ。冬休み前にとある生徒から指名を受けた。つまり先生を私にしてほしい、と連絡があったのだ。悲しいことにこれまでの私は指名を受けるどころか、先生を変えるようにクレームを受けることの方が多かった。一時期私の悪い噂が塾内に流れて不当な扱いを受けたこともあった。それが今回このように指名を頂くまでになったのだ。飛び上がるほど嬉しかった。

しかし当時私の授業に空きがなかったため、一時的に他の先生を担当にして空きができるまで待つことにした。幸い1月中には枠が確保できるのが確定していた。だから2月以降私を担当にする前提で話が進んだ。

とにかく彼の授業をするのが楽しみだった。彼は人の話をよく聞く良いやつだったのもある。だがそれ以上に私を選んでくれたという事実が強力だった。いつも適当な私らしくもなく彼の教科書に合わせた教材を作ったりもした。今思えば当時の私は完全に承認に振り回されていた。

ところが、日が経つに連れて担当を私に変える話は薄れていった。言葉にはできないが、生徒とその講師が授業をしている姿から、そのような流れを見てとるように感じることができたのだ。そして昨日決定的な場面を目の当たりにした。一時的な担当であったはずの講師が別の講師とカリキュラムの相談をしていたのだ。2月以降は私が担当するのだからわざわざする必要のない作業だ。これはもう確信せざるをえなかった。一応講師本人に確認してみた。

「〇〇君の担当ってもう××さんになる感じですかね」

「そうみたいですねー」

違う。あなたは代役だったはずだ。なのにどうしてもう担当した気になっているんだ。どうしてーー

しかし燃え上がるような怒りもつかの間、私を支配したのは深い諦観だった。その生徒を取り戻すにしても今更何ができるというのだ。指名を受けたことを指摘して社員に無理やり担当を変えさせるのか。そんなことが許されるはずがない。生徒は私の所有物ではないのだ。加えてその講師はバイトを始めてから数ヶ月の新人だ。私の我儘で彼から生徒を奪うのは酷過ぎやしないだろうか。

色々考えて、この流れは覆らないだろうことを悟った。だから彼に、汚い感情を見抜かれないように冗談を交えて、

「いやー受験生を担当させられるんじゃないかってヒヤヒヤしてたので助かりましたよ。これから大変かもしれませんが、頑張ってください。」

そう伝えた。もしかしたら嫌みたらしく聞こえたかもしれない。でもそれが私の精一杯だった。

結局人が人を所有することはできない。所有される人は決して物ではない。加えて他にその人と関係を持ちたい人もいる。それらを無視して独り占めすることは許されないのだ。

私はこの先ずっと寝取られ続けるのだろうか。それとも寝取られることも受け入れなければいけないのだろうか。分からない。この強すぎる独占欲のやり場が見当もつかない。

もう私が信用できるのは物だけだ。物であればいくらでも独り占めできる。そうだ、明日はラブドールを買いに行こう。ラブドールを、私だけのものにしてしまおう。人間関係の中で辛い思いをするのはもう嫌なのだ。

まあ買わないけど。